もの忘れ

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβやタウタンパクというたんぱく質が異常にたまり、それに伴い脳細胞が損傷したり神経伝達物質が減少したりして、脳の全体が萎縮して引き起こされると考えられています。

アルツハイマー型認知症では、このような脳の変性や萎縮がゆっくりと進行します。発症の初期にはもの忘れ(約束を忘れたり、大事なものの置き場所がわからなくなったり)、時間の見当識障害(日時や曜日の間違い)、実行機能障害(料理の手順が下手になり味が変わる)などが認められる事が多く、徐々に進行して日常生活全般に介助が必要な状態になっていきます。

アルツハイマー型認知症はご本人の診察、ご家族からの情報に加えて、神経心理学検査(長谷川式認知症スケールやミニメンタルステート検査など)、CTや頭部MRIによる脳画像検査などによって診断されます。

治療に関しては低下した脳の働きを改善するといわれる抗認知症薬が認知症の進行をゆるやかにさせるために使用され、ご本人やご家族が安心して生活が続けられるように環境整備や介護保険による福祉サービスなどを利用しながら安心して過ごしてもらえるようにすることが大切です。

 

血管性認知症

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳の血管の病気によって、脳の血管が詰まったり出血することで脳細胞が壊れてしまい、本来細胞が担っていた機能を失うことによって認知症が起こります。症状の経過や現在の病状の評価、CTなどの画像検査によって診断をおこないます。

血管の病気が起こる場所によってさまざまな症状が起こりますが、主な症状としては記憶力や判断力を含めた認知機能の低下、意欲や自発性がなくなったり、感情の起伏が激しくなったり、些細なきっかけで興奮するなどの行動・心理症状、手足の麻痺やしびれなどの神経症状などが出ることが多いです。

血管の病気を引き起こす原因は動脈硬化です。動脈硬化の危険因子として、高血圧、糖尿病、心疾患、脂質異常症、喫煙などがあります。脳血管性認知症は、生活習慣によって引き起こされるといえるでしょう。

治療としては脳の血管がさらに詰まったり、破れたりして、新たな脳の神経細胞が失われないように、血圧をコントロールしたり、糖尿病や脂質異常症をきちんと治療することが最も大切です。薬以外では今までおこなっていた活動や家の中での家事、自分の身の回りのことなどをできるだけ継続して、規則正しい生活を送ることが大切です。

 

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症の次に多い認知症で、レビー小体と呼ばれる特殊なたんぱく質が脳の大脳皮質(人がものを考える時の中枢的な役割を持っている場所)や、脳幹(呼吸や血液の循環に携わる人が生きる上で重要な場所)にたくさん集まります。レビー小体がたくさん集まっている場所では神経細胞が壊れて減少する為、認知症の症状が起こります。レビー小体型認知症はパーキンソン病の類縁疾患であることがわかってきています。

レビー小体型認知症の症状は幻視(「りす、虫や蛇などがそこにいる」とかなりはっきりしています)、妄想(誰かにお金を盗られたなど被害的です)、パーキンソン症状、抑うつ症状、立ちくらみや便秘などの自律神経症状、睡眠中に夢の内容に沿って大声を出したり暴れたりする行動など認知機能以外の症状が目立つことが多く、認知機能も日によってあるいは時間帯によってぼんやりとしている時としっかりしている時の変動が大きい事も特徴とされています。画像検査としてはCTやMRIのほか、自律神経の働きを調べる心筋シンチやドパミンの働きを調べるDATスキャンなどの検査がおこなわれます。

レビー小体型認知症は初期には認知機能以外の症状が目立つためそれぞれの症状に対して対症療法的な治療をおこないつつ、抗認知症薬を服用したり規則正しい生活や知的活動、運動などの非薬物療法などによってできるだけその人らしい生活が続けられるように援助していきます。

 

軽度認知障害

軽度認知障害(MCI)は「認知症の一歩手前」と言われる状態で、認知症における物忘れのような記憶障害がでるものの症状はまだ軽く、認知症ではないため自立した生活ができると言われています。軽度認知障害の原因には表のようなさまざまな原因があり、軽度認知障害と診断された場合にはその原因を経過、現在の症状評価、画像や血液検査などによって鑑別していきます。その結果、アルツハイマー型認知症などの認知症によって軽度認知障害が起こっていると考えられる場合には認知症に準じた治療をおこない、認知症以外によって起こっていると考えられる場合には原因に対する治療をおこなう事で症状が回復したり発症を遅らせることができる場合があります。

軽度認知障害の原因

  • アルツハイマー型認知症を含めた認知症
  • うつ病などの精神疾患
  • 甲状腺機能低下症などの内分泌疾患
  • 加齢に伴う生活の不活発化
  • その他

軽度認知障害による変化の例

  • もの忘れが目立つようになった
  • 仕事や家事の効率が悪くなった
  • 何となく元気や意欲がなくなった
  • ふだんと違う出来事を嫌がるようになった
  • 趣味から遠ざかるようになった
  • 付き合いの範囲が狭くなった

 

うつ病

うつ病の症状は気分の落ち込み(抑うつ)であり、認知症とはまったく違う病気と思われがちですが、うつ病の症状のひとつである思考の制止によって普段通り頭が働かず記憶力が低下して、一見認知症のように見えることは高齢のうつ病患者ではとても良くみられ、「仮性認知症」と呼ばれます。このような患者さんを認知症として治療をおこなっても症状は良くならないばかりか、かえって症状が悪化してしまうことも多いですが、きちんとうつ病と診断するとすっかり回復することも珍しくありません。逆に、高齢者でうつ病と思って治療をしていると経過を見ていくうちに認知症であることが明らかになることもあります。このように高齢者においてはうつ病と認知症は区別が難しいことも多いため、ていねいに症状の経過をうかがい、必要ならば各種の検査をおこない診療していくことが大事です。