過眠症

過眠とは

過眠とは、日常生活上、起きていなければいけないときに、自覚的に強い眠気を感じる、あるいは他人から見て眠そうにみえ、日常生活に支障がでている状態をいいます。

過眠を引き起こす原因の中でもっとも多いのは睡眠不足です。慢性的な睡眠不足は「睡眠負債」とも呼ばれ、昼間の眠気や集中力低下、身体の不調などにつながります。

何らかの理由で夜間の睡眠の質が低くても昼間の眠気につながります。睡眠の質の低下を引き起こす原因で最も多いのは睡眠時無呼吸症候群ですが、その他の睡眠障害や騒音などの寝室環境の問題でも睡眠の質の低下につながることがあります。

不規則な生活の影響で睡眠のタイミングが乱れても昼間の眠気につながります。俗に言う「体内時計」が乱れると本来起きていないといけない時間に眠気が強まることがあります。

 起きている状態を維持するための脳のはたらきが弱まっている場合にも昼間の眠気が強まります。この場合は規則正しい生活で十分な睡眠を取っていても眠くなり、この状態を過眠症と呼び、ナルコレプシーと呼ばれる病気が過眠症のなかでは最も有名です。

 

昼間の眠気の原因:

  • 睡眠不足(睡眠の量的問題): 睡眠負債
  • 夜間の睡眠障害(睡眠の質的問題):睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群など
  • 不規則な生活(睡眠のタイミングの問題):概日リズム睡眠障害
  • 覚醒を維持する機能の障害(器質的問題):過眠症、ナルコレプシーなど

 

睡眠不足症候群

その人にとって必要な睡眠時間は遺伝的な要因でほぼ決まっており、加齢によっても変化していきます。この必要な睡眠時間より短い睡眠を続けていると慢性的な睡眠不足の影響で昼間の強い眠気が出現して、集中力が途切れてミスが起こりやすくなります。慢性的な睡眠不足は「睡眠負債」と呼ばれ、2017年の流行語大賞にもノミネートされたほど、睡眠時間の不足は世の中に蔓延しています。

 「睡眠負債」は日中の眠気やミスを引き起こすだけでなく、高血圧や肥満、その他ありとあらゆる身体の病気に悪影響を与えることが報告されています。

 「睡眠負債」を抱えている人は自分でもわかりそうなものですが、不思議なことに、睡眠不足であることをご本人が自覚していないことがほとんどです。真面目で融通の利かない人が多く、仕事が一段落するまでは遅くまで一人で仕事をしたり、帰宅後も家事が一通り済まないと床に入らないため、睡眠時間が犠牲になっているようです。

目安としては、休日の睡眠時間と平日の睡眠時間が2時間以上異なる場合には慢性的に睡眠不足がたまってきているということが考えられます。また、週の初めと週の終わりで眠気の程度が違うような場合、週の後半だんだん眠くなっていくというような場合には睡眠不足の影響が強く考えられます。

このような場合には睡眠日誌と呼ばれる記録を付けたり、スマートウオッチなどを用いて睡眠時間を記録しながら自分の生活を自己管理していくことをお勧めし、診察でも記録を見ながら睡眠時間の目標を相談していきます。

 

ナルコレプシー

時間や場所にかかわらず、突然強い眠気に襲われ、居眠りを1日に何回も繰り返してしまう病気です。思春期に発症することが多く、男女で有病率の差はないとされています。夜に十分な睡眠をとっていたとしても、日中に突然眠気に襲われて寝てしまうこと。車の運転中などに突然眠ってしまうこともあるため、病院での治療が必要です。

近年ナルコレプシーの原因は、脳の中で覚醒維持に大事な役割を果たしているオレキシンを作り出す神経細胞が働かなくなることによって起こることがわかってきました。

ナルコレプシーに特徴的な症状として、びっくりしたり大笑いしたときに全身や身体の一部の力が抜けてしまうカタプレキシー(情動脱力発作)、寝入りばなに出現する幻覚様の体験(入眠時幻覚)、寝入りばなに出現する金縛り(睡眠麻痺)などがあります。

ナルコレプシーの診断は睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査を組み合わせておこないます。睡眠不足や眠気を来す身体の病気を除外するために病気の経過や生活習慣を聴取し、血液検査などもおこないます。

ナルコレプシーに対する根治的な治療法はありません。しかし多くの人は、治療を継続することで通常の生活に戻れます。

夜に十分な睡眠をとるように心掛け、毎日同じ時間に30分未満の短い仮眠をとるようにします。軽度の症状ならこれらの対策で十分なことも多いです。睡眠時間の確保と仮眠の利用で不十分な場合には覚醒状態を維持する薬剤を使って眠気を軽減します。情動脱力発作は抗うつ薬を使うと軽減する場合が多いです。

 

特発性過眠症

慢性的な睡眠不足がない状況下においても、強い日中の眠気のために日常生活に支障をきたす病気です。原因が明らかにされているわけではないため「特発性」と呼ばれます。過眠症の一つであるナルコレプシーでは、「情動性脱力発作」「金縛り」「入眠時幻覚」をしばしば経験しますが、特発性過眠症はこれらがあまり認めないことで区別されます。

この病気では、よく眠ることが幼少時期から目立ち、10代で日中の眠気が問題となることがほとんどです。発症時期は明確に特定することは困難で、症状はほとんどの症例で長期化します。特発性過眠症の人では、短時間の居眠りでは眠気を持ち越してしまい、一度に長く寝てしまう傾向があります。

特発性過眠症の治療は睡眠時間の確保や覚醒状態を維持する薬剤の使用などナルコレプシーと同様におこないますが、情動脱力発作は認めないため抗うつ薬は使用しません。

 

反復性過眠症

 反復性過眠症は、数日から1週間程度の過眠期(眠り過ぎの期間)と正常睡眠期をくり返す状態です。過眠期の頻度は年に数回から十数年に1回程度までさまざまです。以前は「周期性傾眠症」という呼び方もされていました。過眠症の中でも珍しい病気で、100万人に1~2人と推定されています。主に10代で発症し、男性に多いのが特徴です。

過眠期には1日中眠っていることもあるため、学業に支障をきたします。その状態がずっと続くわけではなく普段は正常な睡眠状態で、不定期に過眠期が出現するため、それが「病気」と認識されることが少なく、「やる気がない」「自分勝手」など誤解されてしまうこともあります。過眠期にも食事と排泄、入浴はおこない、食欲や性欲が亢進したり、乱暴な言葉遣いになることもあります。

現在のところ反復性過眠症に特効薬はありませんが、傾眠期の予防に有効性が確認されているお薬として、双極性障害(躁うつ病)の治療薬である炭酸リチウムが使用されることが多いです。ナルコレプシーや特発性過眠症で日中の眠気に対して使用される覚醒維持薬は覚醒時の焦燥感や不安感を高めて、攻撃的になることがあるため、あまり使用されません。

治療はお薬が軸になりますが、心身のストレスが多くなると傾眠期が現れやすい傾向があるため、可能な範囲で心身を疲労させ過ぎないような生活の見直しも勧められます。