不眠症
不眠症とは
不眠症とは夜寝つきが悪い、途中で何度も目が覚めてしまう、朝早く目が覚めてしまう、眠りが浅く十分眠った感じがしないなどの夜間の眠りについての問題が続き、よく眠れないために日中の眠気、注意力の散漫、疲れや種々の体調不良などの日中の生活に支障がおこってしまう状態のことを指します。夜間の眠りについて問題を感じており、日中に下記のような症状で悩まされている場合には不眠症の可能性があります。気になる場合にはご相談ください。
眠れないために起こる日中の問題
1. 疲労/不快感
2. 注意/集中/記憶力の低下
3. 社会/家族/就業/学業上のパフォーマンスの低下
4. 気分障害/イライラ
5. 日中の眠気
6. 行動上の問題(過活動/衝動性/攻撃性)
7. 意欲/活力/自発性の低下
8. ミス/事故の起こりやすさ
9. 睡眠問題へのとらわれ など
(睡眠障害国際分類第3版;ICSD-3)を一部改変)
不眠症のタイプ
不眠症は以下のようなタイプに分けられ、睡眠衛生や睡眠薬の選択の際に参考になります。
入眠障害
寝床に入るがなかなか眠ることができなく、寝つきが悪い状態
「なかなか寝付けない」「眠ろうとすると目がさえて眠れない」
中途覚醒
一旦,入眠した後に起床するまでに、頻繁に目が覚めてしまう状態
「夜中に何度も目が醒める」「夜中に目が醒めて、その後なかなか寝付けない」
早朝覚醒
望む時間よりも前に目が覚めてしまい、再入眠できない状態
「朝早く目が醒めて、その後寝付けない」
熟眠障害
睡眠時間は十分に取っているにもかかわらず、眠った感覚が得られない状態
「眠った気がしない」「眠りが浅い」
(熟眠障害は最新の睡眠障害国際分類第3版では評価しにくいという理由で削除されていますが、不眠症の診療では重要な症状であるのでここでは載せています)
不眠症の原因
ここでは精神生理性不眠と呼ばれる一般的な不眠症の原因を説明します。
ストレス、喪失体験などに悩まされている時には交感神経の働きが強まって目が冴えて眠りにくい状態になります。多くの場合は原因が明確であれば、それを取り除くことで眠れるようになりますが、最初は何らかの原因があったとしても、不眠が続くうち、「眠れないことが眠れないことの原因」になることも少なくありません。「どうして眠れないのだろう」という不安や心配が、脳を覚醒させてしまうからです。このような経過で慢性的な不眠となる場合を精神生理性不眠と呼びます。
不眠の原因、5つのP
不眠の始まりははっきりとしたきっかけがある場合が多いです。これらは英語の頭文字をとって5つのPと呼ばれています。この時期に原因に対して対処できれば不眠が改善することが多いですが、そのまま放っておいたり短期的な対処が難しい場合には慢性的な不眠症に移行してしまう場合が多いです。
Physiological(生理学的要因) 騒音、温湿度、照明、寝具などの環境要因や、運動不足、加齢、性周期(生理、妊娠、更年期)、シフトワーク、時差ボケなど
Psychological(心理学的要因) 心理社会ストレス、孤独、睡眠へのこだわり、不眠恐怖など
Psychiatric(精神医学的要因) うつ病や不安障害などの精神疾患
Physical(身体的要因) 心不全、アトピー、気管支喘息、関節リウマチなどの身体疾患
Pharmacological(薬理学的要因) 薬物の副作用、アルコール、カフェインなど
高齢者で多い不眠の原因
個人差はあるにせよ、ほぼ全ての人は加齢によって眠りの質が低下します。眠れる時間が少なくなるのです。これは健康であっても関係ありません。そして、眠れる時間が少なくなっているのに、多くの人は若い頃と同じようにたっぷり眠りたいと考えます。だから眠れず、不眠になってしまうのです。また、若い人が遅寝遅起きがちなのに対して、中高年は早寝早起きになります。理由は体内時計の睡眠のタイミングが若い頃より早まっているからです。しかし、早く寝すぎるとそれだけ早く目が覚めてしまいます。このような理由で高齢者では不眠に悩まされる人の割合が増加します。
不眠症の非薬物治療(睡眠衛生)
睡眠衛生とは質の良い睡眠を得るための生活習慣などに関する知識です。睡眠衛生を整えることで不眠の程度が比較的軽い方には効果があると言われており、不眠に悩んでいる方にはまず自分の生活習慣を見直して睡眠衛生を整えることが勧められます。
①体内時計を維持・強化する。
毎朝同じ時刻に起床し、太陽の光を取り入れ、3食リズムよく食べる。
②ライフスタイルを見直す。
睡眠不足に注意するなど生活リズムを見直し、夕方以降の精神的興奮や激しい運動は避ける。
③嗜好品に注意する。
就寝前4時間のカフェイン摂取や就寝前1時間の喫煙を避け、寝酒もしない。
④寝室環境を快適にする。
明るさ、音、温度、湿度、換気を調節し、部屋の模様替えをしたりする。
⑤睡眠にこだわりすぎない。
無理に眠ろうとせず、眠たくなってから床につく。眠れない時や夜中に目が覚めた時は一度寝床から離れる。夜中に目が覚めても時刻を確認しない。
不眠症の治療(認知行動療法)
不眠症に関連した生活習慣の見直し(睡眠衛生)は不眠が軽度の方には効果がありますが、慢性不眠症の方に対しては十分ではありません。そこで不眠症に対する第二の非薬物療法として考案されたのが認知行動療法です。認知行動療法は睡眠や治療目標に関する誤った思い込みを正すための気づき教育(認知療法)、不眠を悪化させている誤った就床・起床習慣の修正(睡眠スケジュール法)、リラクゼーション(漸進的筋弛緩法)などからなり、睡眠薬と同等の効果があると報告されています。認知行動療法の欠点としては治療に時間がかかり、保険が使えないため費用が高額で(1回60分で1万円など)おこなっている施設が少ないこと、効果を実感できるまでに時間がかかることなどが挙げられます。当院では資料を用いて説明し、睡眠日誌などを用いて自宅での睡眠習慣を記載してもらうことで、一般診療の中で認知行動療法のエッセンスを感じていただけるように診療をおこなっています。
不眠症の薬物治療(睡眠薬について)
不眠症の薬物治療には睡眠薬が処方されます。「睡眠薬は依存性があり、睡眠薬を飲んでいると認知症になってしまう」などと友人や家族からアドバイス(?)を受けると睡眠薬に対して過剰な恐怖感や罪悪感を持ってしまい、不眠症に悩んでいるのに急に睡眠薬をやめてしまい、不眠症が更に悪化して苦しんでいる患者さんは非常に多いです。
現在使われている睡眠薬は大きく分けて、脳のベンゾジアゼピン受容体というところに作用する薬(ベンゾジアゼピン作動薬)、メラトニン受容体に作用する薬(メラトニン作動薬)、オレキシン受容体に作用する薬(オレキシン拮抗薬)の3種類があり、患者さんの症状に合わせて使い分けがなされています。このうちベンゾジアゼピン作動薬は若干の依存性があり世間では悪者扱いされていますが、効果がしっかりあり、適正使用すればとても有用な薬だと思います。当院では患者さんの症状に合わせて睡眠薬の使用を提案しますが、無理強いすることはありませんので、ベンゾジアゼピン作動薬の使用を希望されない場合は診察時に伝えてください。