睡眠薬を飲むと認知症になりやすい?

「睡眠薬を飲むと認知症になるからやめておいた方がいいでしょうか?」睡眠薬に関する心配として患者さんから質問され、週刊誌などでも「認知症のリスクを高める」などという記事をときどき見かけます。実際のところ睡眠薬と認知症の関係はあるのでしょうか。
現在病院で処方されている睡眠薬には大きく分けて3種類(ベンゾジアゼピン受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)ありますが、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬は2010年以降の発売なので、睡眠薬と認知症の関係で調査されているのはベンゾジアゼピン受容体作動薬がほとんどです。フランスで行われたある調査では、平均78歳の住民1000人以上を対象にして最長15年にわたり追跡した結果、睡眠薬を服薬していた高齢者では4.8%、服用していなかった高齢者では3.2%が認知症を発症しており、1.5倍のリスクがあったというものでした。しかし、同じような方法でおこなった他の調査では睡眠薬は認知症のリスクを高めないとするものも複数あり、睡眠薬と認知症の関係はまだはっきりしていないというのが現状であると考えられます。
さらに、ここ5年間ほどの研究によって、睡眠不足や不眠症そのものが認知症のリスクを高めるという強力な証拠が続々登場してきています。このような結果から考えられることは、不眠に悩んでいる方は睡眠薬をやみくもに怖がって不眠を我慢するのではなく、まず不眠を起こしやすい生活習慣の見直しをおこなった上で(生活習慣の見直しは睡眠衛生指導と呼ばれています。もう少し積極的な薬を使わない治療として認知行動療法と呼ばれる治療もあります)、必要があればできるだけ少量の睡眠薬を使用して、不眠が改善したら減量・中止していくという対応が現実的ではないでしょうか。

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